ガラパゴスゾウガメ ジオ・ワールド 1999年6月号付録 制作:1999年2月

とりかかってから2年・・・・・・。
取材を済ませて、途中甲羅まででき上がって、なんとかしなければ・・・・・・と思いつつも、そのまま放置されていたのを、強引にジオ・ワールドの仕事として日の目を見る。

動物ものとしては一番の大作。

・ひとくちメモ・
ボクが制作したのはガラパゴスゾウガメのオス。
交尾をするためにオスのおなかの甲羅はへこんでいるのだ!
飼育員の方が黒板に図解して教えてくれた。


取材をした1997年、11月
『どうぶつと動物園(11月号)』の
“動物だんわ室”に文章を寄せました。
(財)東京動物園協会発行


上野動物園のゾウガメ、かめ吉くんとの
ツーショット写真です。

 ぞうがめとぼく The Elephant Tortoise and I

 僕は紙で立体作品をつくっています。展開図を起こして組み立てる、ペーパークラフトというやつです。モチーフは、ときに動物だったり、ときに人物だったりといろいろですが、このところ、動物の作品が多いので、実際の動物を観察しに動物園に出掛けたりもしています。
 去年の暮れのことです。ゾウガメをつくろうと思い、例の如く動物園に取材に出掛けました。寒さのためにゾウガメは、飼育小屋の中にいて外には出てこないということなので、事前に理由をお話してアポイントをとっておき、飼育係の方といっしょに小屋の中に入れてもらいました。
 小屋の扉を開けると、六畳間くらいのコンクリート張りの部屋の中央に、岩のようなかたまりがうずくまっています。「こいちはバナナが大好物なんだよ」と言いながら、飼育係のおじさんは手に下げたビニール袋の中から一本取りだし、皮つきのまま顔の前にちらつかせて見せました。さすがのゾウガメもバナナの誘惑には勝てないと見え、のそりと起き上がると首をニョッキとのばして歩き出しました。「ほーら、な」と、おじさんは誇らしげです。僕はここぞとばかりにカメラを構え、バナナを追うゾウガメを追い回し、シャッターを切りまくります。
 しばらくしておじさんは、僕に袋を手渡すと外で仕事を始めました。小屋の中はとても暖かです。僕は着ていたコートを部屋の隅に置いて、バナナを片手にゾウガメをおびき寄せ、もう一方でシャッターを切りました。さながらスペインの闘牛士気分です。頭の中をフラメンコが鳴り響きます。オーレ!
小屋の中でふたり(?)小一時間ほど過ごしたでしょうか。すっかりゾウガメ君とも打ち解け、ツーショット写真も撮りました。ペーパークラフトの資料写真も十分に撮ってひと安心。そんな満ち足りた気分の僕に悪夢が襲いかかりました。気づくと、となりにいたはずのゾウガメが見えません。辺りを見回すと。部屋の隅でもぞもぞやっています。何か食べているようです。「おかしいなあ、バナナは全部あげたはずなのに何食ってんだ?」とのぞき込むと、それは昨日クリーニングからあがってきたばかりの僕の黄色いコートじゃぁないですか?!「ちょっと待てい! お前の好物はバナナじゃないか。それは僕のコートだぞ!」。あわてて取り返したものの、お気に入りのコートにはよだれがべっとり。のんきにムニャムニャやってるゾウガメの傍らで、半ベソでよだれをぬぐう僕の姿を見たらスペインの闘牛士もさぞやあきれることでしょう。
「またクリーニングに出さなくちゃ」。ゾウガメのよだれにまみれたコートを着て僕はひとりつぶやくのでした。僕の制作の日々はつづく・・・・・・。